ニュースの概要

静岡県伊豆市の修善寺東小学区地域づくり協議会が、災害時に使える簡易トイレを地域の家庭に配布した。自治会などで構成する地域運営組織が、防災用品を行き渡らせることで各家庭の備えを後押しし、行政の支援を待つだけではない地域防災の体制づくりを狙う取り組みである。自治会活動は担い手不足や参加率の低下に悩んでいるが、防災は住民が関わりやすい話題になりやすい。災害時のトイレ問題は避難生活の健康を左右するため、配る物としての意味も大きい。配布を通じて住民が顔を合わせる機会も生まれる。今回の動きは、備蓄の充実だけでなく、地域内の防災意識と助け合いの輪を広げる実践として位置づけられる。

引用元: 修善寺東小学区地域づくり協議会、災害時の簡易トイレを配布(Izu Shimbun Digital)

分析・見解

水や食料より後回しにされがちな、トイレの備え

災害時のトイレ問題は、備蓄の中でも見落とされやすい。水や食料は多くの家庭が用意するが、排泄の備えは「そのうち」と後回しになりがちだ。ところが断水すれば、水洗トイレはすぐに使えなくなる。過去の大きな地震でも、避難所のトイレが足りず、汚れて使いづらくなる問題が繰り返し起きた。

人はトイレを我慢しようとして水や食事を控え、体調を崩すことがある。脱水や感染症、エコノミークラス症候群(=足の血流が悪くなる病気)につながる恐れもある。国の指針でも、1人1日5回程度を目安に、数日分から1週間分の備えが勧められている。特に高齢者や子どもがいる家庭では、トイレの不安が避難先の選択にも影響する。

配るという行為が、備えを「自分ごと」に変える

パンフレットで備蓄を呼びかけても、実際に動く人は多くない。配布は、まず「受け取る」という行動が先に起きる。家に物が届けば、置き場所や使い方が家庭で話題になる。小さな一歩を踏むと次の行動が続きやすい、という人の性質をうまく使った方法といえる。

配る側にも利点がある。役員が各戸を回れば、高齢者の一人暮らしや空き家の様子など、普段は見えにくい地域の実情がつかめる。ただし、配って終わりでは効果が薄い。使い方がわからない、凝固剤(=水分を固める薬剤)の使用期限が切れる、といった落とし穴があるためだ。簡易トイレの多くは保存期間が5年から10年ほどで、定期的な点検が欠かせない。

行政任せにしない、小学校区という単位の強み

伊豆市のように小学校区を単位とする協議会は、防災の担い手として相性がよい。自治会単位では人手も資金も小さすぎ、市全体では顔が見えない。小学校は避難所にもなるため、避難する人の範囲と活動の範囲が重なりやすい。

大きな災害では、行政も被災する。阪神・淡路大震災では、救出された人の約8割が家族や近所の人に助けられたとされる。伊豆半島は南海トラフ地震の被害想定地域に含まれ、道路が寸断されれば孤立する集落も出かねない。行政の支援が届くまでの数日を地域で持ちこたえる力が、備えの中心になる。

防災を入口にして担い手不足を和らげる可能性

自治会は、加入率の低下や役員の高齢化に悩んでいる。清掃や会合は敬遠されても、防災は「自分や家族の命を守る話」なので参加の理由を見つけやすい。ここに独自の見方がある。防災は義務ではなく、保険のように得を感じられる活動として参加を呼びかけられる点だ。

簡易トイレの配布は参加のハードルが低く、組織が動く練習にもなる。次の段階として、設置訓練や備蓄点検を行事にできれば、地域に定期的な顔合わせの場が生まれる。防災をきっかけに顔見知りが増えれば、日常のあいさつや見守りにも波及する。課題は、自治会に入っていない世帯へどう届けるかである。

ビジネスへの影響

企業が地域と組むなら、まず「物」から入る

自治会や協議会は、活動を支える協力者を求めている。防災用品メーカー、ドラッグストア、工務店、不動産会社、宿泊施設などは、簡易トイレや備蓄品の提供、割引販売という形で関われる。配布は成果が目に見えるため、地域貢献として社内外に説明しやすい。

提案するときは、物の提供だけで終わらせず、使い方講座をセットにするとよい。受け取る側の負担が軽くなり、継続もしやすい。単発の寄付より、毎年の点検や入れ替えを支える形のほうが、地域に長く残る関係になる。

自治会や地域組織が今日から使える進め方

配布の前に、世帯数、家族の人数、保管できる場所をアンケートで把握しておく。必要な量が見えれば、無駄な購入を避けられる。家族4人が1週間備えると約140回分になり、費用は数千円から1万円を超えることもある。補助金、自治体の防災支援、企業の協賛を組み合わせて負担を分けたい。

配布時には、使用期限を書いたシールを貼り、期限の一覧を回覧板などで共有する。年に1回、防災の日や訓練に合わせて点検日を設ければ、期限切れを防げる。配った数ではなく、使い方を理解した世帯の割合を目標にすると、活動の質が上がる。

事業所や店舗も、自社の備えを見直す好機

地域の備えが進むほど、地域にある事業所への期待も高まる。多くの自治体が、従業員が帰宅できない場合に備えた備蓄を事業者に促している。従業員用のトイレや水、食料が足りているかを、この機会に確かめておきたい。

観光地では、宿泊客や来店客のトイレ対策も課題になる。温泉地の旅館や商業施設が、地域の一時的な受け入れ先として備蓄と使い方を整えておけば、災害時の信頼につながる。地域の取り組みに歩調を合わせることが、結果的に自社の事業継続を守る備えにもなる。

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